Softwind's diary

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オホーツク海の網走沖に発生した流氷の流れの軌跡としてのカルマン渦(Karman vortex)

先日、12月12日に九州東シナ海で渦雲が発生したことをテレビ天気予報番組で天達(アマタツ気象予報士が説明しているのを見て、関心を持ちました。その渦はカルマン渦というとのこと、読者の皆さんも一度は聞いたことがあるかもしれません。強い北風の流れに済州島のハルラ山(1950 m)が円柱の役割をして下流後方に雲の軌跡としてのカルマン渦列が観察されたようです。このカルマン渦列が見られるのは、本格的な冬の到来というのが天達気象予報士のお話であった。そこで12月12日のNASAの衛星画像を見てみると、図1左の2019DEC12ようにf:id:Softwind:20191225185838j:plain

図1  2019年12月12日の九州東シナ海長崎沖のカルマン渦列。左上が済州島(左画像)。右画像は2019年1月21日の同海域上空のカルマン渦列。風下の奄美大島上空までカルマン渦列が続いている

 カルマン渦列が観察されています。大陸からの季節風の流れに済州島のハルラ山が円柱の役割をして、後流に向かって右側の流れは左巻の渦が、左側の流れには右巻の渦が交互に生成しています。図1右の2019JAN21のカルマン渦列はさらに鮮明ではっきりと左右2列の渦が交互に並びみごとな渦列を作っているのが観察されます。画像2019DEC12でも渦列を作っているのが見られます。カルマン渦列の生成機構は流体力学の分野で多くの専門家により研究され、数値シミュレーションなどもされています。このような渦列のできる機構は流体の運動方程式であるナビエ-ストークスの式(NS方程式)を、粘性非圧縮性流体(例えば水や空気など)に応用することにより理解することができます。それは式(1)のように示されることが分かっています。

 

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式1-3

 

νは流体の速度で、μは動粘度性係数、ρは流体の密度、pは流体の圧力でFは外圧である。右辺の第2項目は流体の粘性を表現する式でナビエが現実の流体の性質を説明するために導入した。確かに、水や空気は粘性を持っているため渦ができたり、循環が生じたり、空気では大気の大循環や風やうなりを感じたり聞いたりする。しかし、式(1)は見ただけでも。非線形の2階偏微分ではないか。この一般解は未解明だそうです。このナビエ-ストークスの式は”7大難問” (中村享、数学21世紀の7大難問、ブルーバックス)の1つに入っている。式(1)は粘性非圧縮性流体に適用した形になっていて、いろいろな条件、初期条件や境界条件を入れて数値シミュレーションなどがなされています。後、式(1)の他に式(2)の条件が必要である。非圧縮性流体の場合には、流体の密度変化がないので連続の式は
                                                                                                        (2)

 

さらに、無次元化した式(1)に渦度を導入した渦度方程式を導き、数値シミュレーションが行われる。式(1)の無次元化で得られるレイノルズ数(Re)は

                                                    (3)

 

ただし、流体の流速をU(m/sec)、動粘度性係数をμ(m2/sec)、柱状物の幅をd(m)とする。レイノルズ数は流体の粘性力と慣性力の比を表していることが分かる。Reが10-100ではカルマン渦列が現れ、105以上では乱流となることがわかっている。

   NASAの衛星画像を見ていると、オホーツク海の網走沖にカルマン渦と思われる渦が確認されたが、時系列で見ていくと、これは東シナ海九州沖の雲によるカルマン渦ではなく、どうも流氷の流れの軌跡としてのカルマン渦のようである。渦の中心の位置もほぼ移動していないのもカルマン渦と考えられる理由です。

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図2 オホーツク海網走沖NASA衛星画像2018JAN28-2018FEB02。流氷によるカルマン渦そのうちでも双子渦が確認される。

 

図2に2018年1月28日の画像2018JAN28から2018FEB02までのカルマン渦の変化を示してあります。2018JAN29の天気図は気象庁のデータ集から引用しています。この日は990 hPの低気圧が知床半島付近に移動し、北西の強い風が3.9 m/secで最大で9.9 m/secで画像2018JAN29の赤→の方から吹き出していますが、この上流には済州島のハルラ山のような円柱になるような山はありません。従って、オホーツク海面に一定方向に吹き下ろされた北西の強い風が海面にあたり、これが円柱の役割をしていると思われます。風下に向かって北側の渦は右巻に、南側の渦は反時計回りに渦を作っていることが確認されます。2018FEB02では北側にもう一つの渦が生成し始めています。このようなカルマン渦はレイノルズ数Reは1-10くらいで風による海水の流れは弱く、遅いために生じた双子渦と考えられるでしょう。このような流氷のカルマン渦ができた後に、網走海岸に流氷が接岸していることがわかります(2018年2月2日網走で流氷接岸初日)。この双子渦もナビエ-ストークスの式を用いた数値シミュレーションで解析できるようです。

 

  参考文献

1) ウィキペディアWikipedia)、ナビエ-ストークスの式.

2) 中村享、数学21世紀の7大難問、ブルーバックス.

3)国土交通省気象庁(Japan Meteorological Agency) データ.

4)NASA、Explore Earth Your Way with Worldview.